今、お互いに「クリスマスおめでとうございます」と挨拶をしましたが(Geetings)、挨拶の言葉はラテン語で「アヴェ」(ave)と言います。この挨拶「アヴェ」は、「ようこそ」や「幸いなるかな」「おめでとう」とも翻訳されています。ようこそイエス様!これがクリスマスの出来事です。
世界で一番美しい讃美歌といわれる「Ave verum Corpus アヴェ ヴェルム コルプス」は16世紀から歌われてきた歌詞を少し変えて、モーツアルトが曲を書きました。[Ave verum Corpus natum de Maria Virgine Vere passum immolatum In cruce pro homine(est): Cujus latus perforatum(est) Unda fluxit et sanguine Esto nobis praegustatum In mortis examine](ようこそ 処女マリアから生れた真の身体よ、真に苦しまれ、人間のために十字架にかけられ、いけにえとなられました。その脇腹は突き通され そして、水と血とを流されました。わたしたちのために死の試練を予め味わってください。死に臨んで先だつ経験者となってください。)まあ、キリストの体を表わすパンをいただく晩餐式において歌われる讃美歌ですから、当然なのですが、キリストの体について「ようこそ」と言われていることに驚きを感じました。彼が生れる1年前の1755年11月1日マグニチュード8.5~9.0の大地震がポルトガルのリスボンの町を襲いました。私の家族と共にリスボンに行ったことがありますが、人口の密集した、入江が入り組み、坂の多い町で津波による死者1万人を含む5万5千人から6万2千人が死んだと言われています。死者9万人であったという説もあります。当時のヨーロッパ人はかなり楽天的で、人間は自由と欲望によって繁栄するのだと考えていたのです。しかし、この大震災によって、自分の足で立っていると考えていた人々は、根底から揺さぶられ、世界の終わりが来たのではないかと感じたそうです。そのような民衆を慰めるためにモーツアルトは死の半年前にこの讃美歌を作曲しましたと言われています。「レクイエム」(葬式ミサ曲)と共にいわば、35歳の彼の遺言のような信仰告白です。美しい調べの背後には人間の生き苦しさ、悲惨、孤独が隠されているものです。「キリストは肉において現れ」が登場するということで、Iテモテ3:14-16の古い「キリスト賛歌」をクリスマス説教のテキストに選びました。クリスマス物語とは違って、イエスは、ダビデ王の家系であるとかユダヤ人であったとかには触れていません。キリストは「(悲惨を暗示する)肉において現れた」「人となられた」という賛歌は、抽象的ではありますが、かえって、広く、深いものを伝えているのではないかと思われます。(松見 俊)